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その男は日本銀行の行員だった。現金つまり日本円を介さない売買の方が多数派になって一番困ったのは金融業界だった。証券会社は売買代金決済にすばやくネットのポイントを導入したためダメージは一時的だった。だが、とにかくお金が世間でどんどん動かなくなったのだから銀行は取扱い金額が年々減少し、地方銀行は多数経営破たんした。
大手銀行は現金と、ネットポイントや0円ショップで扱う交換品の相場を預金者にきめ細かく知らせて手数料を得る、一種の投資銀行業務を新しい経営の柱にしてからくも生き残った。
だが国の中央銀行でありお札の発行主体である日本銀行はそうはいかなかった。日銀がこの傾向を容認したり、ましてや参加したりしたら日本国の法定通貨など無いに等しい状態になってしまう。
日銀は頑なに日本円の使用を財界と一般国民に働きかけたが、庶民と中小企業、新興企業には馬耳東風でしかなかった。大企業のロビー団体である経ドン連は立場上、会員である上場企業、大企業に日本円を使い続けるよう要請し、大企業ではかろうじて日本円での決済を維持していた。
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