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待ちに待った給料日、だがその家ではまだ若い夫婦の間で激しい言い争いが起きていた。給与明細をにらみつけながらブツブツ言い続ける妻に、小さな製造業の会社に工員として勤務する夫は顔をしかめて言った。
「しょうがないだろ、今月は注文が少なくて材料の仕入れが少なかったんだ」
「だって、こんなに給料が上がったら、どうやって生活するのよ!」
金切り声で言い返す妻に夫は心底うんざりした口調で答えた。
「そんな事、社長に言ってくれよ」
その月の夫の給与は前の月の5割増しになっていて、その代わり「現物支給」の部分が半分以下になっていた。
これは十年ほど前、当時の最大与党と最大野党が談合の末に消費税増税に踏み切った事から始まった現象だった。日本経済そのものが少子高齢化による国内市場規模の縮小という構造的な大問題を抱えていたにも関わらず強行された消費増税は、国民の生活を直撃したのみならず、日本の経済全体に重大な変化をもたらした。
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