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とある映像記録
通信は不調。未来の無い現実を突きつけるように、冷たく無情で、意味の無い映像が画面を包んでいる。
だが、永続的に続いていた砂嵐の映像に僅かな揺らぎが生じた。
『はぁ、はぁっ!』
画面いっぱいを覆い尽くす程の近距離に、青ざめて取り乱した青年の顔があった。角度や画面の揺れ方からして、青年はこの映像媒体を抱き抱えているのだろう。
『なんだよ……っ! ど……ってんだよ!!』
映像が繋がったばかりのせいもあり、音声は不安定だった。そのノイズが混じったまま悪態を突く青年の背景は暗かった。時間帯は夜なのだろう。
『なん……が出てるんだ! こいつは、これは、 …………じゃ無かったのかよ!』
青年は混乱していた。その割りにはやるべき事だけは解っているらしく、一心不乱に走り続ける。
時折背後を振り返る青年。逃げる理由は背後にあるらしいが、角度が悪く映像媒体にソレは映らない。
しかし、その逃走劇は終わりを告げる。
青年が走るのを止めた。そして映像媒体に青年が見つめる先が映し出された。
壁。
つまり、行き止まりだった。
そして次に、青年の背後から迫る脅威が映し出される。
『残念だけど鬼ごっこは終わりよ、ボウヤ。大人しくソレを渡しなさい』
映像は少しずつ安定していき、暗闇の中に女の姿が浮かび上がる。さらにその背後には、乱雑に組み上げられた人形兵器の群れが、ナイフや銃器を携え、蠢いていた。
『ソレはね、ボウヤ。貴方が思うよりも遥かに言葉通りの意味で、新しい未来を作り上げるためのものなのよ。大人しく渡せば、無事に帰らせてあげるだけじゃなく、報酬も渡すわ』
その女に敵意は見当たらない。だが、青年に向けられた銃口にも迷いさえなく、所謂、敵意の無い殺意がそこにあった。
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