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とりあえず、事態を把握するためにコレと会話するのは些か効率が悪い。仕方ないからさっきまで一緒に居た千博に相談しようと、携帯電話(旧式だ)をポケットから取り出した。
「ため息を吐くと幸せが逃げる、という迷信をご存知ですか?」
どうやら無意識に嘆息していたらしく、ロボットに心配されてしまった。
「知っているが生憎、逃げるような幸せの持ち合わせが無くてな」
プログラム相手には意味が無いと解っていながら、ついそんな強がりを口にしてしまった。意味が無いからと自制できる程俺は利口じゃないんだ。
「幸せは持ち合わせる物では無く掴む物だと思いますが」
「カッコいい台詞は今は要らないから。少し静かにしてくれ」
「かしこまりました」
きゅんと落ち込むように沈黙する人工知能プログラム。よしこの命令は聞いてくれたようだ。今の内に千博と、
『お掛けになった電話番号は、電源を切っているため、届きません』
ちくしょうそういえばあいつバイトだった!
「繋がらなかったようですね」
「うるさい」
なんかロボットに心配された。お前らに解るか、この屈辱が。解らないだろ? 俺だって俺が今誰に語りかけてるのか解らないさ。
なんか妙にイライラしてきた。心に真冬の窓みたいなモヤがかかっているせいでその出所は掴めない。
「というか、なんで動いてる? 人工知能プログラムはまだ成功してないはずなのに」
思わず呟いてしまった疑問に対して、人工知能プログラムは人間味を帯びた小首の傾げ方をして、なにを今更、と言いたげに、答えた。
「――人工知能プログラムは、随分前から完成しておりましたが」
「……は?」
それはつまり、人工知能プログラムそのものは前から完成していたが、なんらかの理由で起動出来ていなかっただけだ、ということだろうか。現状では解らない。
まずは調べる必要がある。
しかし俺は、人工知能プログラムのプログラミングやソフトの方なら調べられるが、それが組み込まれている本体、つまりこの人形の方は調べられない。
朝比奈芽々(あさひなめめ)というもう1人のサークルメンバーがこの人形を作ったのだが、内部構造が複雑過ぎて専門家以外は触るのも怖いぐらいになっているのだ。
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