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◆◇◆◇◆
家に着いた。家、というには生活感は無いが、テーブルと、畳まれた布団と、パソコン(ノートパソコンとは別の)。これらだけあれば、俺は生活出来る。カップ麺の買いだめもしたから、完璧だ。
「適当な所に座ってくれ」
言ってから、ロボットに気を使う必要があるのか? と気付く。まぁいいか。減るものでもないからな。
「かしこまりました」
椅子も座布団も無い独り暮らし用のアパートは狭い。その狭さを強調するかのように、人工知能プログラムは部屋の隅で縮こまった。
俺は荷物を置いて、カップ麺用にヤカンでお湯を焚き始めた。古いとか言うなよポットよりヤカンのほうが安かったからだ。
「ヤカンですか。レトロですね」
英語に変えて言いやがったなこのヤロウ!
「こっちのほうが、味が深くなるんだよ」
見苦しい! 自分で言っておきながらなんだがかなり見苦しいぞこれは!
「ご主人様は、お一人ですか?」
変な問いをしてくる人工知能プログラム。
「お一人だよ」
カップ麺の蓋を開けながら答えると、そいつは黙った。なんだったんだ、今のは。
因みに、ちょっと待ってくれ様という呼称を何とかさせようとしたらやっぱりご主人様になった。名字で呼ばれるのはなんとなく嫌だったからと、下の名前では断固として呼んでくれないようだったからだ。決して俺の趣味では無い。
お湯が炊けるまでの間にパソコンを起動させ、この誤作動について少し調べておくことにした。
パソコンのデータのほうでは、インターネットとの接続に異常は無いようだ。むしろ良好過ぎてビックリするぐらい。
お湯が炊けたからカップ麺に注いで、違う事も調べたが、パソコンのほうでは結局、なんの異常も見当たらなかった。
カップ麺が出来上がり食べていたら、自動節電モードにでも入ったのだろうか、人工知能プログラムはいつの間にか、眠るようにうずくまって沈黙していた。こうやって見ると本物にしか見えないから困るよな。
――そう、12年前に死んだ本物の妹に。
俺が人工知能プログラムを開発しようと思い至った原因は、妹の死なんだ。
妹の外観に似せたロボットに、妹の人格を模した人工感情を組み込む事で、もう一度、妹と出会おうとした。
千博はそれを病気と言った。
的を射ているな、と感心するよ。
俺は多分、決して治らない病気を患っている。
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