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千博曰く、ここK市のKはクレーターのKだ、と言われているとのこと。しかし残念ながらクレーターの頭文字はCである。
それはさておき、ともかくだ。ここK市は巨大なクレーターと間違われそうなほど、くっきりした盆地に栄えた街だ。
中心にはショッピングモールや娯楽施設が集中した歓楽街がり、それを囲うように住宅街がある。俺達が通う大学は住宅街の中にある。
そこから広がるようにして商店街や工場地帯、田園地帯がある。
大学に通ってる奴は大体が住宅街に下宿するのだが、俺の下宿先はそんな立地の良い場所に無い。1度商店街へ出て、さらに進み、クレーターの最北端へ。
クレーターの終わりは急な坂になっていて、かなり住みづらい。だからこそ土地が安く、別荘地になっているような場所まである。しかし、俺の下宿先の在処は勿論、安さだけが取り柄の最悪の場所だ。
急過ぎる坂は真冬でも汗をかくし、秋風が涼しくなってきたこの季節ならば汗だくだ。さらに見晴らしも悪く、疎らな工場地帯が坂の下に広がってる始末。人通りは当然少ない。
俺はその坂に差し掛かる前に、商店街でカップ麺をまとめ買いしておいた。貧乏学生の強すぎる味方はやはりカップ麺と半額弁当である。
その買い物袋を片手に、大学に通いはじめて3年経った今でも全く慣れない坂に差し掛かる。
その時だった。
「ご主人様」
声が聞こえた。いやに淡白で、冷たい少女の声が。
いや少し待て。きっと気のせいだろう。だって聞こえてた単語がご主人様、だぞ? なんかもういろいろとあり得ない。
しかし人間の気のせいには、大抵、気のせいを引き起こす原因がある、と、心理学を専攻している千博は言っていた。俺はその原因を確かめるべく、振り向く。
そして、呼吸の仕方を忘れた。
黒髪のツインテール。白過ぎる肌に、淡い色の虹彩。そんな美少女がそこには居た。いや、違う。在った。
ラボに置いてきた人工知能プログラムに酷似した何かが、俺の視界の中で夕陽を浴びていた。
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