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そしてもうひとつ不可解な事があった。それは、ここには俺以外の人間が居ないという事。そしてそいつは、確かに俺のほうを見てご主人様と呼んだ事。
俺を、ご主人様と呼んだのか?
「えっと……。は?」
どういう反応をすればいいのか解らない。言葉だけでなく、全身の神経も奪われたらしい。身体が動かずに、上がっていたはずの体温から暑さも感じなくなった。
「ご主人様はご主人様と呼ばれるのがお気に召さなかったようで。でしたら、お兄ちゃん、とお呼びしましょうか?」
少女はやはり表情ひとつ変えないまま、あり得ない冗談を抜かしてきた。
やめてくれ。それは色々とイカれてるような気がする。ということさえ言えない。なんだ、何が起きてるんだ……?
「問いに対する回答を要求しても構いませんか。それとも、暗黙の了解と認識しても良い、ということですか」
その機械的で淡白な態度はまさしく機械のソレであり、揚げ足を取るような問い方にはむしろ人間味があるように思えた。
「暗黙の了解で良い、と、判断させて頂きます。では、お兄ちゃんと」
「やめろ」
やっと声が出た。1番大事な訂正だからな、ここは。
「では、なんとお呼びしたらよろしいでしょうか」
しかしそいつは事態の把握なんてさせてくれない。問いから問いへ移り、正攻法では全く隙が無い。少しぐらい考える時間をくれないか。
「ちょと、待ってくれ」
頭を抱え、とにかく考える。多分あれは人工知能プログラムで間違いないだろう。だが、だとしたら何故動いている? 実験はまだ成功していないはずなのに。
「かしこまりました。ちょっと待ってくれ、とお呼びいたします」
「ああ、そうしてくれるとありがた――くなんて全く無いぞそれは少しお決まりすぎる!?」
何かが間違えている、というよりも何もかもが間違えていると思った。
「いいえ。ちょっと待ってくれ、という名称は、極めて稀だと思いますよ」
「この展開の事を言ってるんだよ俺は! この勘違いがお決まりすぎるんだ!」
「ちょっと待ってくれ様は、何か勘違いをしていたのですか?」
「勘違いをしてるのはお前だ!」
思わず叫んでしまった。なんなんだよやっぱり実験成功なんてしてないじゃないか。確かに俺は、人工知能プログラムに人間味を与えるため少しだけ天然要素を足そうとしていた。決して天然のほうが萌えるからでは無いぞ。
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