epilogue

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 窓から見た雪は、まるでスクリーンを通して見ているもののように感じた。高校三年生の冬。高校生として居られる最後の日。という訳ではないけれども、卒業という言葉に、どうやら自分は、実感がわかないらしい。  古めかしい校舎も、買い換えられたばかりの真新しい机も、埃の溜まりやすい廊下も、関係を断ち切るにはまだ早い気がしてならないのだ。  俺は誰も居なくなった教室の壁をそっと撫で、一度だけ全体を見渡してから教室を出た。  なんだか、早朝の湖のほとりにでも居るような気分だった。外に降る雪は、少し激しくなってきている。  俺は教室のドアを閉めて、歩き出した。俺はきっと振り向かない。  誰も居ない廊下に自分の歩く音が響き渡る。込み上げてくる何かを抑えようと、自分の歩くテンポなんてものを計ってみる。  おおよそ、アンダンテ。本当にどうでもいい。  そうしているうちに、俺は目的の場所に辿り着いていた。いや、別段ここに来ようなどとは思っていなかったのだが、意図せずとも来てしまった以上は、結果としてここが目的の場所である。  社会科教室。高校生活の多くを過ごした場所であり、つい先程、ささやかなもう一つの卒業式が行われた場所である。
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