プロローグ 日常に、幕を閉じる

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蒼は大山を思い浮かべて目に涙が貯まった。中学を卒業したのは2ヶ月前の話でそれほど昔の事ではない。しかし、中学の友達とはほとんど離ればなれになってしまった。 それが少し寂しくも感じた。 蒼は校門の中に入った。まだ朝練が始まるこの時間は校庭からも声が聞こえず静まり返っていた。 蒼は断片的に覚えている今朝見た夢を思い返してみた。 ……あれは、幼い頃の記憶? 蒼は首を傾げた。何故だが蒼は9年から前の記憶をほとんど覚えていなかった。小学校入る前の記憶の事だし、その事について対して気にも止めていなかった。 だからこそ小さくなった姉の腕の中に抱えられていた猿みたいな赤ん坊が弟の甲であることも、覚えていない父親の背中を必死に泣きながら叫んでいた幼い自分の姿もどこか一歩離れた所で見ている気分だった。 ……なんであの猿が甲だと思ったんだろう。 蒼は自分の教室に入った。しーんと静まり返った教室の雰囲気は結構、好きだったりもする。 ふと、自分の机の上に何か置いてあるのに気がついてあわてて蒼は自分の机に向かった。 机の横のフックに鞄を掛けながら 【天魔 蒼殿】と筆で書かれた封筒を手に取る。意味も解らず蒼は体が震えた。 恐る恐る封筒を裏返しにして宛名を見てみる。左下に小さく、【朝月組】と書かれていた。その文字を目にした瞬間、脳裏に今朝見た夢が鮮明に思い浮かんだ。 それは一歩引いて見ていた夢の出来事出はなく、実際に体験した、あの時の父親の温もりだとか、姉の波瑠が自分の手を握りしめていた力強よさ、吐き気を覚えるほどの血の匂いだとかそういった五感の部分までもが全てが鮮明に部分的に思い出した。 蒼は封筒を机の中にしまいこみ、逃げるように教室を出た。 一気に流れ込んでくる記憶に情報にあの時の気持ち全てが身体中を焼き付くすほどの熱を帯びて襲いかかってきた。蒼はただただその熱に呑み込まれないようにと、校内を走り回った。
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