1話 差し伸べられた手

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 走っていた。  私はただただひたすら走っていた。  行くべき宛も何も無しに、まだ寒い2月の空の下を、ただ走っていた。   着物ははだけ、せっかく結ってもらった髪は見る影もなく崩れているのが分かった。  ただ、今日は特別と母が刺してくれた桜のかんざしだけは無くさぬようにしっかりと手に握っていた筈だ。 「はぁ……はっ……」  元来体力の無い私は、半時も走り続ければ足も鉛のようになっていった。  そして、肩を大きく動かさなければ息も出来なくなった頃、ようやく人里の灯りが目に入った。  走り始めた頃はまだ橙だった空は、既に暗い闇が包んでいた──……。
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