『ごめんなさい』

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 そう考えたら、少し意地の悪い自分がひょいと顔を出した。 「…これから、貴士くんは、今の彼女を大事にして、…私は、次の人を見つける」 「………」 「…ってことで、いいんだよね?」 「…それ、俺に聞いちゃう?」 「それ覚悟の、返事なんでしょ?」 「…うーん」  困って苦笑いしている彼に、笑って、チクリとイヤミを言ってみる。  我ながらいい性格してるよなぁ。  でもその反応から少なからずの好意を感じ取って、幾らか安心する。  …ほんと、あざとい。  貴士くんを困らせてるのに、喜んでる自分がキライ。  私は作り笑いに自嘲の影を潜めて、その話を切り上げることにした。 「…じゃあ」 「…うん」  握手していた手の力が抜ける。  もう、これで終わり。   互いの掌が、スル、とほどけていく。 「………」  けれど、指先が離れ難く引っ掛かる。  どちらかが力を抜けば完全に離れるのに、外れそうで外れない微かな力で、私たちは繋がっていた。 「……あーぁ…」 「はは……」  未練がましい真似はしたくなかった。  格好悪いところを見せたくなかった。  せめてキレイな記憶として、彼の中に残ってほしかったから。  なのに、精一杯の虚勢が崩れそうになる。 「……なんで」 「……ごめ、ん」  貴士くんが、顔の半分を手で覆って、目を擦る。  謝った声は、小さく震えてた。  なんで、貴士くんが泣くの? 「もー…」  こんなことしている自分達が滑稽に思えて、可笑しくなった。  泣きたいの、私の方だよ。 「…どーすればいいの、私」
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