『ごめんなさい』

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 口に出して、一瞬後悔する。  こんな言い方、相手を責めてるのと一緒だ。  でも、もう取り繕えない。  泣きそうになっている顔を見られないよう、俯いて、片手で顔を隠す。  暴れだしそうな感情を抑えようと、ゆっくり深呼吸して、息を飲んだ。  …大丈夫、まだ。  目を閉じて、更にもう一度、深呼吸を繰り返す。落ち着け、と自分に言い聞かせる。  なのに、必死に冷静になろうとしている私を、彼はぎゅっと、抱き締めた。 「……なんで」 「……ごめん」  どっちの意味の、“ごめん”?  気にはなったけれど、額に当たる固い胸の温もりが、暖かすぎて。  思わず、頭を擦り寄せてしまってから、自分の行動にハッとして、離れようと身をよじる。  でも、抱き締める腕は、思ったよりも力が込められていて、それから更に少し、引き寄せられた。  なんで…、ここで、抱き締めるの?  困惑する私の背中に回された腕から、貴士くんの体温が伝わってくる。  ヒールを履いた私よりも、頭一つ分背の高い彼の顔が、私の頭の上に乗せられて、頬を擦り寄せ、背中を撫でられる。  まるで、愛されているような気持ちになる。恋人のようだと、錯覚してしまう。  どうせその手を離すなら、優しくしないで。  私の気持ちを知っていて、それでも触れるなんて、酷いよ。  私から放すなんて、できっこないのに。  あたなのことが好きで、気持ちを抑えられないくらい、大好きなのに。  叶うわけがないと、分かっていても、ずっと触れたかったあなたに抱き締められたら、もう放したくなくなる。離れられなくなる。  行き場のない想いが渦巻いて、押し潰されそうだった。
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