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夢にまで見た抱擁を与えられて、泣きたくなるくらい幸せだった。
こっちが強くしがみつく分だけ、貴士くんも力を入れてくれた。
何度も抱き締め直して、頭を撫でてくれるのが気持ち良かった。
嬉しいから、その分切なくて、悲しくて、目の縁が熱を持って、涙が滲んだ。
なんで、こんなに好きになっちゃったんだろう。
実らない恋だと予測できていたなら、それ以上踏み込まなければ良かったんだ。
頭では、分かってた。
なのに、毎日が楽しくて、そうすることができなかった。
メールを送れば返事が返ってきて、はじめて知る一面が見え出したら、もう止まらなかった。
CDを借りるだけの用事で初めて外で会ったあの日、なんとかネタを探して話を途切れさせないようにして、いつまでもだらだらと喋ってた。
恋愛下手な私にとって、こんなにテンションの上がることは珍しかったし、それで満足だった。
それが、引き際を間違えさせたんだと、今になって思う。
きっとあのときは、まだ本気ではなかった。だから楽しめた。
――もしも、あのあと一緒に飲みに行かなければ。
ここまで焦がれるほど、胸を痛める想いを抱かなくても、済んだかもしれない。
でも、もし行かなければ。
後々後悔して、それが、思い募って余計に鬱々としていたかもしれない。
すべてを後悔しているわけではないし、『こうすれば良かった』なんて明確な答えも思い付かない。
ゴチャゴチャ理由探してみたって結局、ずっと気になっていた人なんだから、親しくなった時点で好きになるのは確定事項だったのだろう。
理屈っぽくなるのは、私の悪い癖だ。
この短い時間で、私は色んな思いを巡らせた。
ただ、いくら考えたところでどのみち、時間を巻き戻すことも、この気持ちもすぐには消せない。
泣くのを堪えて、私は一つ決意する。
これで最後なら、我が儘を一つくらい言ってみようと思った。
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