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彼が去っていく足音すらも聞きたくなくて、足早に大通りに出て、家路につく。
ア パートの階段を昇って家に入ると、母親が笑っていた。
「完全に朝だよ。ずいぶん飲んでたね」
事情を何も知らない母は、単に友達と飲んで朝帰りしたとしか思っていない。
「そうそう、最後ファミレスに寄ってゆっくりしちゃってさ」
こんなときでも笑って、さらっと嘘をつける私ってすごい。
「そのまま寝るんでしょ?」
「うん。あと適当に酔い醒めたらシャワー使うわ」
普通に返していたが、徐々に涙腺が緩んでくるのが分かった。
「じゃ、寝るね」
「はいはい、おやすみ」
すとん、と部屋の襖が閉まった途端、一気に色んなものが吹き出した。
「……っ」
聞かれないように声を殺して、涙はボロボロと溢れてくる。
我慢しているから息ができなくて、酸欠になりかけ、息を吸ったら咳き込みそうになって、また息を止めた。
呼吸を整えながら、生理的なものに混じってまた溢れる涙と、ツンと刺激する鼻の奥から鼻水も出てきて、顔がぐちゃぐちゃになる。
こっそりと鼻をかんで、止まらない涙をそのまま放って、私は布団に入った。
泣きながら、涙以上に溢れ出る好きの気持ちをどう整理つけたらいいのか考えながら、私は目を閉じる。
ある程度酔いは覚めていたとはいえ、限界近くまでアルコールを飲んでいだお陰で、眠気はすぐにやってきた。
意識が遠退く中、唇に残る感触を思い出して指で触れ、自分の愚かさにまた泣けた。
貴士くんも、私と同じように思い悩んでくれてたらいいのに。
それが意味のないことだと理解しながらも願わずにはいられず、そうして私は深い眠りに落ちていった。
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