『ごめんなさい』

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       お酒を飲んだ日の帰り道、いつもならタクシーを使う距離を、二人でゆっくりと歩いて帰る。  白みがかっていた藍色の空は、太陽が昇って淡い青へと変わり、清々しいまでに天気が良い朝を迎えた。 「…酔い、醒めた?」 「だいぶ」  一緒に笑って、また歩を進める。  やがて互いの家への分岐点に着き、私たちは立ち止まった。  私たちは互いの家に行ったことはない。  大体の場所を知っているだけだ。 「もう、大丈夫だよ。一人で帰れる」 「いいよ、家まで送る」 「…眠くない?大丈夫?」 「うん、大丈夫」  気遣う言葉をかけながら、本当は、一緒にいれるのが嬉しかった。 「家、どこだっけ?」 「あっち、南高の下ら辺」 「もしかして、あの狭い道入ってくとこ?」 「知ってるの?」 「あの辺昔、自転車で探索してたよ。高校の時かな。懐かしー」 「探索って」  可愛らしい響きに思わず笑う。  貴士くんも笑っていて、穏やかな空気が流れた。 「結構、近かったんだ」 「うん」  少しずつ、私の家に近付いていく。  同時にそれは、互いの間に流れるこの空気が、終わってしまうことも意味している。  いっそ、終わってもいいと思った。  このまま答えを聞かなくても、さっき貰った言葉だけでもいいと思えた。  たぶん、今、貴士くんが必死に考えてくれているんだろうというのが伝わった来て、緊張した。  ここにきて、今さら怖じ気づくなんて――。  隣を歩く貴士くんの袖口に触れるか触れないかの距離のまま、少しの間沈黙が流れる。  そうして、家まで残り1kmくらいの地点に来たところで、貴士くんが詰めた息を吐き出すように口を開いた。
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