9人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「…なんか、ごめんね? 困らせたよね」
「いや、そんな…」
しんみりしたくなくて、軽い感じで言ってみる。
並んで歩きながら隣を見ると、貴士くんは少し俯いて、足元を見ながら歩いている。
「…時間かけて、最後にこんな話で、ほんと、ごめん」
申し訳なさそうに謝られて、つい笑ってしまう。
「いいよー、だってそんだけずっと考えてくれたってことじゃん。めっちゃ悩んでんの、すごい分かったし」
笑いながら、その顔を覗き込んで、斜め下から見上げて返す。
目が合って、貴士くんも力なく笑った。
「…でも、ほんとに……特別だったんだ」
「……うん」
「もし…、もっと、早かったら……、また、違う形で、出会っていたら……」
「……付き合えたかも、しれない?」
「………か、な」
「……じゃあ…、惜しかったなぁ……」
今度は、あまり上手く笑えなかった。
鼻の奥がつんとなり、危ない予感がして、鼻から息をゆっくりと吸って、誤魔化す。
…今、この人は何を考えてるんだろう。
私と同じで、色んな思いを巡らせているのかな。
IFは語るもんじゃないよ、と誰かに言われたことがある。
過去には戻れないし、今後に活かせないような無意味な話なら、ただ悔やむだけで悲しくなるだけだ。
それを、今ほど痛感したことはない。
最初のコメントを投稿しよう!