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「…あと、ここ曲がって行くだけだから」
ゆっくりと歩いてきたけれど、あと数十メートルというところまで来た。
「あと、大丈夫だよ?」
今度のは、ちょっと本心が混じる。
はっきりと答えを出されて、これ以上何を話されても、却ってつらくなるような気がした。
最後くらいはちゃんと笑おうと、出来るだけいつもの笑顔を貴士くんに向ける。
すると、同じように、彼もいつもの笑顔を見せて、
「ここまで来たら、ちゃんと家の前まで送りますよ」
と茶化すように言った。
私の好きな、いつものやり取り。
つらい、と思う以上に、一緒に居られることの嬉しさの方が強かった。
それにもう、もしかしたら…こんな時間を二人で過ごせることは、二度と来ないかもしれない。
そう考えたら、断ることができなくなった。
「…ありがと。じゃあ、お願いします」
「いえいえ」
苦笑い混じりになったが、わざとらしいくらいに頭を下げてお願いして、それに合わせて彼もお辞儀する。
楽しい。嬉しい。
けれど、切ない。苦しい。
それでも。
あと僅かでもいいから、傍にいたかった。
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