魔族の誇りと過ちと

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 ◇◆◇◆◇ 「魔王。お食事のお時間でございます」  無駄に広い玉間にて、側近の日影が、大して食欲のそそらない食べ物を運んできた。 「ご苦労」  瞑想を中断して立ち上がり、廃れた玉座に腰を下ろし直す。  一応、王の修行を邪魔したというのに、日影は何事も無かったかのように私の前に食べ物を並べた。 「なかなかの無礼を働いている、ということには気付いているのか?」 「はい。魔王がお堅い方なので、たまにはユーモアが必要かと思いまして」  表情ひとつ変えない日影。冗談を言う時ぐらい笑ってくれたらいいものを。しかし私は、こいつの笑顔を何十年も、見ていない。 「まぁいい」  故に早々に諦めて、私はフォークとナイフを手に取った。  硬い肉。北端で採れる食料は限られているのだ。極稀に人間が住む南方から仕入れる肉と違い、旨いとは言えない。 「民への食料需給率はどうだ?」  その問いに、日影は目を閉じた。 「6割、といった所でしょうか」 「また、減ったか」  2度目の敗戦以降、食料需給率は右肩下がりである。  なんとかならんのか、と聞きそうになったが、なんとかならんという事ぐらい解っている。人間から領土を奪い、作物が豊富に採れる土地を得なければ、この問題は解決しない。 「レクトール・オリオン、か……」  不意に、我々の宿敵である勇者の名を呟いた。奴に勝たない限り、我々の未来は無い。  私以外に、奴と渡り合える者は居ない。つまり、私が勝たなければならない。とわ言え、私1人が奴に勝利しても戦に勝てなければ意味が無い。 「城の食料には、まだ余裕はあるか?」  私が聞くと日影は、またですか、と嘆息し、答えた。 「数ヶ月分のストックならばありますが、このまま不作が続いた場合を考慮すると、余裕はありません」 「そうか」  今の不作はかなり深刻だ。おそらく、まだ続くだろう。  だが、人間との戦争に勝たなければ現状は打破し得ない。  なら、 「半分だ。半分の食料を民に回せ」  それしか方法は無い。
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