アオイハル

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別に誰からも好かれたい訳じゃない。 他人を傷付けるのは簡単だ。 だけど、俺は傷付く側の感情を痛いほどに知っているから 誰かを傷付けるのは怖い。 だから平気で嘘を吐く。 自分を守る為に。 「そっか、残念。あたしの方こそゴメンねー?」 「……」 泣くでもなく罵るでもなく、逆に目の前の女子は清々しい顔を見せて俺に背中を向けた。 軽やかに小走りで去って行く背中を見送りながら、“フった”のは確かに自分の筈なのに、言い様のない虚無感に襲われる。 小さく溜め息を吐いて彼女とは反対の方向へと踵を返したと同時。 「……武田っち。今月何人目?」 階段脇の非常扉の後ろからひょっこりと顔を出した村上の姿。 「……覗きなんてイイ趣味してるね、村上」 立ち止まる事なく、敢えて質問に答える事もなく村上の横を通り過ぎた。
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