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「あ、ヤバいっ!バッシュ忘れた。ごめん、先帰ってて」
今日洗っておかないと、試合に間に合わなくなる。
ダラダラと校門の方へ向かう仲間達に別れを告げて、一人薄暗い部室へと戻った。
中途半端に陽が落ちた夏の夜。
体内時計の狂った蝉が、一際大きな鳴き声を響かせて飛び立っていく。
つられて見上げた薄闇の中に浮かぶ大きな黄色い月が、何故か淋しそうに光の雫を溢してた。
立ち止まる暇なんてない。
施設と言っても里親の待つ家に数名の子供が生活を共にしていて。
俺を除いて皆まだ幼い子供たちばかり。
みんな腹をすかせて俺の帰りを待っている。
『部活をやりたい』と我が儘を言った代わりに、家事を全面的にやる事。
それが、新しい“家庭”のルール。
多分こんな風にのんびりと部活に顔を出せるのも今のうちだけだろう。
慣れていく事と諦める事は紙一重なんだと、思っていた。
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