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よそのクラスの教室は自分の教室以上に苦手。
同じ造りの教室なのにまるで知らない世界に来たみたいな違和感に、いつも呼吸困難になりかける。
故に、隣の隣のクラスに行く時は所要時間を1分と自分の中で決めていた。
「な、中村君、ま、漫画……」
一番後ろの廊下側の席。
窓が開いていたのが好都合とばかりに廊下から声を掛けると、彼は不思議顔で顔をあげてあたしを見た。
「ああ、上村さん」
彼はヘラリと笑ってあたしの差し出した漫画を受け取った。
……“上杉”ですけど。
喉から出かかった言葉を飲み込んであたしも思わずヘラリと笑みを返した。
「上村さん、ごめーん。漫画の続き、今友達に貸しちゃった」
“上杉”ですけど。
「……あ、そうなんだ。じゃあまた今度……ありがとう、中村君」
もうすぐタイムリミットの1分。
「ちなみに俺の名前、村上ね」
「……」
彼の不思議顔の理由も分かったところで、1分を待たずにあたしは自分の教室に向かって逃げ帰った。
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