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たった数メートルの距離が恐ろしく長く感じて、わざとバタバタと靴音を立てながら廊下を駆けた。
……またやってしまった。
小さな頃から、人の顔や名前を覚えるのは得意じゃない。
毎日顔を合わせるクラスメイトですら『この人誰だっけ』なんて思う日もしばしば。
唯一、貴重な漫画を貸してくれる恩師の名を忘れるなんて……!
「村上君、村上君、村上君……」
忘れないように、村上という名を口にしながら暗記を試みる。
「村上、村上……痛っ……」
不意に顔面から誰かとぶつかって、思わず身体がよろけた。
覚束ない視界の中、ほのかに感じた甘い香りに嗅覚を刺激される。
「……大丈夫?」
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