キラキラヒカル

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ざわめく廊下に響いた声は低く、あたしの目の前に差し出された手は綺麗な節の大きな手のひら。 どうしてか上手く声が出そうになくて、差し出された手を取る事も躊躇して。 その人の顔を見あげる事もなくぶんぶんと首を縦に振り続けた。 「ふはっ……そう、良かった」 甘い香りと共に差し出された腕が降りるのを眺めながら、相変わらず首を振り続けるあたし。 「……村上のこと、よろしく」 そんな声が届いて慌てて顔をあげたけれど。 声の主はもうとっくに踵を返して数歩進んだところで、後ろ姿しか目に映らなかった。 「えーっと。“村上”って……誰だったっけ?」 ほんの一瞬の出来事。 あっという間に吹き飛んだ記憶に代わって脳裏に焼き付くのは、低く澄んだ声、綺麗な手のひら。 そして、未だに鼻の奥で燻る、甘い甘い香り……。 .
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