3600秒のセカイ

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見覚えのある後ろ姿。 さらさらと肩からこぼれ落ちる、艶のある髪。 俺の席に座っていた彼女がゆっくり椅子を後ろに引いて立ち上がる。 机の上に広げていたノート類をトントンと突いて一纏めにして、その腕の中に抱き締めるように抱えるのが見えた。 う、……わぁ。 バカみたいに鼓動が激しくなる。 思わず足がすくんで、教室のドアの所から一歩も動けなくなった。 「武田っち?何してんの」 村上は不思議顔でそう訊ねて、けれど俺の返事を聞く事なく教室の中へと入っていく。 「あ、ちょっ、村上っ」 呼び止めたところで一体何を言うつもりなのか、まるで考えつかなくて。 それくらい俺の脳内はパニック状態。 棒立ちのままその姿を追うと、村上は鼻歌まじりで何故か俺の席の方をめがけて足を進めた。
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