3600秒のセカイ

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いつまでも嗅覚を刺激する、彼女の残り香。 本当はそんなもの、誰も分からないかも知れないけれど。 この間の“偶然”と同じ感覚。 『村上、村上……』なんて口ずさみながら、嬉しそうに廊下を走って来た彼女が偶然俺とぶつかったあの日。 嬉しい気持ちと哀しい気持ちが混ざって、嘘みたいに心臓が早鐘を打った。 『大丈夫?』 そう言って差し出した俺の手をかわして、ただコクコクと頷いて見せた上杉ヒカル。 背中を向けて踏み出す一歩が怖くて。 高鳴る心臓は治まる事を知らなくて。 今と同じようにパタパタとかけていく足音を耳に、触れた瞬間感じた彼女の柔らかい香りに頭が痺れた。 「……武田っち?どうした?」 口元を押さえたまま立ち尽くす俺を気に掛けて近づいて来た村上の姿。 今は、何となく 言葉を交わすのも躊躇う。 「……別に。何でも」 自分自身が一番嫌いになる瞬間。
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