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「んー、そう?」
村上は軽く返事をして、そのまま教室から出て行く。
何だか後ろめたい気持ちでその背中を見送りながら、また溜め息を一つ。
それでも、胸の奥から沸き起こる不思議な感情に居ても立ってもいられなくなった。
俺にしか感じない、上杉ヒカルの残り香にいざなわれるようにフラフラと自分の席に戻って
何とも言えず胸が軋んで。
生まれて初めての感情を持て余したまま静かに椅子を引いた。
「……っ!」
他人を信じるのは恐い。
“好き”だなんて言って他人を受け入れる事は、偽善に満ちて実体なんかない。
まるで宗教じみた偶像崇拝。
そんな風にずっとずっと思っていたのに。
心の扉が音を立てる。
机の上に落とした視線がもう何処にも外せなくて。
『 織田信長 かな 』
他愛のない落書き。
その質問の答え。
ただその一言に
俺の心の扉を叩くのは、彼女なんだって確信した。
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