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「……ふはっ」
バスケットボールは体育館を転がって、とっくに開いたドアの隙間から外へと逃げていった。
いつまでも無邪気にガッツポーズを掲げる彼女の姿が可笑しくて、思わず吹き出す。
慌てて口元を覆ったけれど、彼女は俺の存在に気付く事もなく
「あれっ?マイケル?何処行ったのかな」
逃げ出したボールを追って、外へと飛び出して行った。
……もしかして、ボールに名前付けてんの?
しかも、安易な名前だなー……
なし崩し的に可笑しくて、思わずその場に立ち止まる。
「ふっ、くくっ、」
何がどう可笑しいのか、説明のしようがないんだけれど。
またバスケコートに舞い戻って来た彼女は、先程の無邪気な笑顔とはまるで別の真剣な表情を見せて、シュートの練習を繰り返す。
小柄な身体からは想像も出来ない程、大きく見える背中はしゃんと伸びて。
小さな深呼吸さえも聞こえるくらいの静寂の中。
絶妙な間を取って放たれたボールは、静かに軽やかにゴールへのラインを描く。
……嘘でしょ?
知らず知らずの内にステージの脇に身を屈めるようにして、彼女のシュートを見守る。
何と無く。彼女に見付かりたくない。
思わず喉がゴクリと鳴って、何度も目の前の光景を確かめた。
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