――紫陽花――

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 同日、学園廊下。 「おや、雨見君……だったかな?」  図書室へ向けて廊下を歩いていると、珍しい人物に声をかけられた。 「あ、えと……こんにちは、加東さん」  この人は加東春明(カトウ ハルアキ)さん。生徒会の副会長で、去年の文化祭の時にいろいろとお世話になった。僕と一歳しか変わらないのに、何故だか達観していて、とてつもなく大人びている人だ。一説では予知能力があるとか噂されてるけど……まさかね。 「この先には図書室くらいしか無いが……そこに何か用事かな?」 「あ、はい。本を返しに」 「そうか。気を付けてな」  …………え? 「――気を付けるって……何にですか? 本を返すだけですよ?」 「さて、何にだろうね」 「え……あ、……?」 「ふむ、訳がわからない、といった顔だな。そんな君にはこの言葉を贈ろう」  ――あ、出た。この人は、困ったり悩んだりしている人に聖書や偉人の言葉を贈っているのだ。しかも、得てしてそれは的確なアドバイスになっているのだから大した人だ。 「二十二章二十七節――償うための物があなたになければ、敷いている寝床さえ取り上げられるであろう――」 「――え、ちょ、なんですかそれ!? どう解釈しても悪い意味にしか取れないんですが……」 「どう受け取るかは君次第だ。それでは、私は行くよ」 「あ……はい、さようなら……」 「うむ」  そう言うと加東さんは僕の来た道をまっすぐ歩いていった。
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