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ほどなく、女性が雑巾とタオルと袋に入った新品の靴下を持って戻った。
「ごめんなさいね。これに履き替えて下さい」
私は煙草を揉み消した。
「すみません」
「ご旅行中ですか?」
私の大きなスーツケースに目を遣ってから彼女は訊いた。
「えっ? ええ。まあ、そんなようなものです」
放射線量の高い危険な地域に住む事を許されず、あちこちをさすらいながら生き延びて来たとは言えない。
私が靴下を履き終えると彼女は笑いながら言った。
「お詫びに夕ごはんを差し上げますから」
「えっ?」
「だいじょぶよ。あたし、独身だから。だんなと別れたの」
彼女の優しそうな眼と赤い唇を見て、私は甘えたいと思った。
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