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(今日も見たな、あの夢)
彩未は服を着替えながらぼんやり考えていた。
彩未が自分の名前を呼ばれる夢を見るようになったのは、彼女が初めて人が命を引き取るのを看取った夜からだ。
しかしこの夢はうなされるようなものではなく、むしろ温かく包み込んでくれるような感覚であった。
だから彩未は尚更戸惑っていた。
着替えを終えた彩未は一階にある診療所に降りていった。
「あら、彩未。おはよう」
彩未の母、美代は朝ごはんを作っている手を止め振り返った。
「おはよう。お父さんは?」
「お父さんはもう朝の回診に行っちゃったわよ」
「うそっ、もう行っちゃったの?私が来るまで待っててっていつも言ってるのに……ちょっと行ってくるね」
彩未はそう言うと、急いで患者がいる病室へと向かっていった。
「おとーさん、ひどいなぁ、先に行っちゃうなんて!」
「あぁ、ごめんな。美代が作る朝ごはんの匂いがあまりにも旨そうだったから、早く食べたくなったもんでな」
白衣を羽織っている彩未の父、隆盛はいかにも物腰柔らかそうな顔つきだ。
診療所がいつも患者が溢れかえっているのは、きっと隆盛の人の良さも関係しているのだろう。
「別にそんなノロケ話聞いてないから。カルテ貸して、早く終わらせるよ」
「ははっ、最近ますます彩未は美代に性格が似てきたな」
その後二人は無事朝の回診を終え、美代が作る朝食を食べに向かった。
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