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それから隆盛は診察を始めた。
彩未は楢橋の容態についてカルテに詳しく書き込んでいく。
「はい、楢橋さん。もういいですよ。少し休んでてください」
「先生、ありがとうございます。ではお茶でも煎れてきますかな」
楢橋はよっこらせっとかけ声をかけ立ち上がり、部屋を出ていった。
「彩未、楢橋さんの容態を聞いて、何の病気か分かったか?」
隆盛は彩未の方を向き尋ねる。
これはいつもの隆盛のやり方なのだ。
「咳と微熱、体がだるいか……ちょっと待って」
彩未は自分の鞄から使い込んでボロボロになった本を取り出す。
医学書だ。
これは彩未が十歳の誕生日に欲しいと言って、両親に頼んで買ってもらったものだ。
今ではもうここまで読み込んでしまっている。
「確か…ここら辺に……わかった!『肺結核』でしょ」
「正解だ。楢橋さんの場合まだ吐血してないみたいだし、薬をきちんと飲んだら治るだろう」
「そうなんだ、よかった。最近ではまた結核の患者が増えてるんだよね。確か沖田とか高杉も同じ病気で死んじゃったんだっけ?」
彩未が顎に手を当てて思い出すように言うと、隆盛は深く頷いた。
「そうだ。昔は死の病と言われていたが、今ではちゃんと治療をすれば半年くらいで治る。薬さえあれば沖田達も死なずにすんだのになぁ」
隆盛はそう言うと、トランクの中から薬を取りだし二人は楢橋のいる部屋に向かった。
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