第一章:夢の始まり

8/13
前へ
/172ページ
次へ
それから隆盛は診察を始めた。 彩未は楢橋の容態についてカルテに詳しく書き込んでいく。 「はい、楢橋さん。もういいですよ。少し休んでてください」 「先生、ありがとうございます。ではお茶でも煎れてきますかな」 楢橋はよっこらせっとかけ声をかけ立ち上がり、部屋を出ていった。 「彩未、楢橋さんの容態を聞いて、何の病気か分かったか?」 隆盛は彩未の方を向き尋ねる。 これはいつもの隆盛のやり方なのだ。 「咳と微熱、体がだるいか……ちょっと待って」 彩未は自分の鞄から使い込んでボロボロになった本を取り出す。 医学書だ。 これは彩未が十歳の誕生日に欲しいと言って、両親に頼んで買ってもらったものだ。 今ではもうここまで読み込んでしまっている。 「確か…ここら辺に……わかった!『肺結核』でしょ」 「正解だ。楢橋さんの場合まだ吐血してないみたいだし、薬をきちんと飲んだら治るだろう」 「そうなんだ、よかった。最近ではまた結核の患者が増えてるんだよね。確か沖田とか高杉も同じ病気で死んじゃったんだっけ?」 彩未が顎に手を当てて思い出すように言うと、隆盛は深く頷いた。 「そうだ。昔は死の病と言われていたが、今ではちゃんと治療をすれば半年くらいで治る。薬さえあれば沖田達も死なずにすんだのになぁ」 隆盛はそう言うと、トランクの中から薬を取りだし二人は楢橋のいる部屋に向かった。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

326人が本棚に入れています
本棚に追加