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「あ、申し遅れました。私、赤ずきん協会から参りました、赤ずきん見習いのヒズキと申します。本日は貴方の命を貰い受けに来ました」
「帰れ!」
少女の言葉を最後まで聞かず、玄関ドアを乱暴に閉める。
そして、こんな時のために付けておいたドアの鍵を二つ、急いで掛けた。
やっぱり、ワンドア・ツーブロックは防犯の基本だよな。
「あの、すみません。ここ、開けてもらえませんか?」
玄関ドアに預けた背中越しに、ノックの振動が伝わってくる。
「できれば話の途中なので、中でゆっくりお茶でも飲みながらお話の続きを」
「ふざけんな! どこの世界に『貴方の命を貰い受けに来ました』っていう不審人物を自宅に招き入れ、あまつさえ茶まで出す阿呆がいると思ってんだ!?」
「そんな! 狼は単純でバカだから、簡単にドアを開けて家の中に入れてくれるって聞いてたのに」
「ああ、そうかい。そりゃあ、残念だったな。単純でバカな狼より阿呆なおつむを持った自分自身を恨め」
狼は単純でバカ。
誰にでも簡単にドアを開き、家の中に招き入れる。
『赤ずきん』の間では、こんなふうに言われているのか。
とりあえず、これからはドアを開ける前に誰が来たのかくらい確かめないといけないな。
そうでなければ、せっかく玄関ドアに鍵を二つも付けた意味が無い。
気をつけよう。
「あの、すみません。ここを開けて下さい。貴方の首を持って帰らないと私一生赤ずきん見習いのままなんです」
「そんなこと知るか! たった一つしかない首をやれるわけないだろ!? もう、さっさと帰れ!!」
「そんなことできません! 一生赤ずきん見習いのままなんて、そんなの嫌です」
「俺だって、むざむざ殺されてたまるか!」
平行線をたどる互いの主張は、当然ながら交わることはなく、時間だけが空(むな)しく過ぎていった。
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