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あたしには……お父さんとお母さんが居なかった。
ううん。正確に言えば『本当のお父さんとお母さん』
あたしに居たのは、機嫌が悪くなるとあたしを殴るお父さんと、口を開けば「産むんじゃなかった」「あんたが居るから幸せになれない」――そう繰り返すお母さん。
ずっと思っていた。この二人は本当のお父さんとお母さんじゃない。
本当のお父さんとお母さんなら、誕生日やクリスマスにはプレゼントをくれて、ごちそうを作ってくれる。
どこかに連れて行ってくれる。誉めてくれる。
本当のお父さんとお母さんなら――あたしをたくさん愛してくれる。
本当のお父さんとお母さんなら――
そう思っていたある日、お父さんがどこかに消えた。
「女と逃げた」
お母さんがそう言っていた。
お母さんは次の日から何もしなくなった。
掃除も、洗濯も、食事の支度も――。
最低限のことすらしてくれなくなった。
そしてお母さんもどこかに消えた。
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