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ユリウスには息子が一人いた。
名を、『セルジュ』といい、街の者からは毎日可愛がられた。
だが、本人は歳の割に冷めていて、笑いもしない。
まだ10にもなったばかりだというのに、わかっていたのだ。
まわりの大人らは皆、自分ではなく、将来の保身を思って近づいてくるのだと。
父が王室に入り込んでしまえば、街の医者は自分だけになってしまう。
その時に、もし怪我や病に犯されれば、どうなるだろう。
嫌われでもしていて、診療を遅くされてはたまったものではない。
にこやかに近づき、媚を売る大人らの考えはこうだろう。
そう、幼いながらに感づいて、壁を作っていたのだ。
故に、セルジュが通り過ぎれば、大人らは聞こえぬように囁く。
生意気な餓鬼め、と。
そんな日々が、続いていた。
今日も勉学を終えて、セルジュは家に帰るために足を進めていた。
雪は止む気配はない。これは産れてから当たり前なので気にもしない。
重い医術の本を抱えなおして、路地をまがった。
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