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「くそ!!どこへ行った!!!」
「近くにいるはずだ!探せ!」
遠のいていく足音と、気配。
上がる息を整えて、引っ張ってきた奴の様子を窺う。
息一つ乱さずに、けろりとしているそいつの頭に、見えるもの。
フサフサ、ピクピク。立派な、それは人間のものではなくて。
「お前、人狼(ヒュルフ)か?」
「……・・・グルル」
こくりと一つ頷いたそいつの後ろにも、ゆらゆらと揺れる立派な尻尾があった。
ぶつかったときには気づかなかったというのに、これには流石に驚いた。
文献や、人伝にしか聞いたことはなく、知識もその程度。
実際に見ることなど、初めてであった。
耳と尻尾を隠してしまえば、完全に人間である。
しかし、何故人狼が街の中にいるのだろうか?
「どこから来たんだ?兵が追うってのは、相当だぞ」
「………・・・がう」
指をさして、今隠れている廃屋の扉を指さす。
確かに、その扉から入っては来た。だがそうじゃない。
俺が聞きたいのはそうじゃないんだ。
視線を元に戻したとき、気配を全く感じさせずにそいつは
俺と顔が引っ付くんじゃないかというほどに近づいていて。
スンスンと鼻を鳴らして、髪、首筋から腰の辺りまで匂いを嗅いでいた。
恐らく、今の行為は俺のことを調べているのだと、理解した。
好きなようにさせてやると、信用を得られたのか、体を離して尻尾を振った。
そして、俺を驚かせることをするとは。
「お前、いいやつ!」
「!話せるのかよ……っ」
「にんげん、おれ、仲間も、ころしにくる。だから、話さない」
「仲間……?ッほかにもいるのか」
「はなせるの、おれ、だけ。にんげんみたいなのも、おれだけ」
「………・・・お前、ひょっとして、森の」
「おまえ、なまえ、いう!おれ、恩、わすれない!」
にかっといい笑顔で名前を訊ねてくる狼少年(見た目が可愛らしいので女の子かと思ったが)に
普段と変わらぬ無表情で、名を教えてやることにした。
「俺は、セルジュだ」
「せるじゅ!おれ、アルフレド!!」
人間のように、ちゃんとした名前が狼社会にもあるようだ。
本当に、子供らしからぬ子供だったと、今にして思うと複雑である。
だが、これが、俺ことセルジュと、アル(アルフレド)の出会いであった。
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