七尾玉虫

10/20
前へ
/176ページ
次へ
  ヨレヨレスーツの白髪混じりが吐き出したモノは〈その他の部類〉である。 見える者にしか見えないし、写真にも写らないモノだ。 長いあいだ、人はそれを信じて疑ってきた。 けれども、大概のヒトはそれを腹の中で飼っている。 大きいか小さいか、強いか弱いかは人それぞれで、嫌なモノだから誰にも言えないし、かと言って邪険にもできないから、なんだかお腹にしまっている。 「アンタ、大丈夫か?」 玉虫はダウンジャケットを脱ぎ、それを丸めて枕を作った。 枕を男の頭の下に入れたが、ドロドロはなおもこの世界に滲み出してくる。 「ああ ああ‥‥」 男は目を閉じたまま、鳥の雛が親鳥に食べ物をせがむような声を出した。 ドロドロの嫌なモノが、ヨレヨレの口から出尽くした。 だから玉虫は右手を動かしたのだか、その動きを止めたものがある。 《その部類は拙者の餌ゆえ》 「‥‥誰‥だ‥‥」 玉虫の小さな耳に、押し入ってくる声がある。  
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!

134人が本棚に入れています
本棚に追加