七尾玉虫

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  「お母さん、これ落ちたよ」 夜の8時を回った頃、コンビニ〈ナイトナイト〉のレジに並んでいる大きなリュックに、この店でアルバイトをしている七尾玉虫が手を差し出した。 指に500円硬貨をつまんでいる。 女性は、モゾモゾと財布の中で指を動かしているのがいけない。 「おや、これはありがとうございます」 この初老の女性には、東北の訛りがある。 店内の客は5人。 玉虫はその人に頭を深く下げられたのだけれども、ニコリともせずくるりと身を翻して、品出しの作業に戻ろうとした。 都心のど真ん中にあるけれども、空いているレジは1つだけ。 そんなマイナーなコンビニ〈ナイトナイト〉で、地方の訛りを聞くことは珍しい。 「お兄さん、ちょっと聞きたいんだけども、こごの住所に行くにはどうしたら良いんだい?」 玉虫の横に、茶色の封筒がすうっと出された。 ───梅松ミチ代様へ─── (梅に松‥‥‥) それを手にした玉虫は、封筒を裏返した。 三条尻手3ー2 マンション蒲の穂 302号室 「‥‥‥」 このビルの三階である。 「‥‥‥」  
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