七尾玉虫

4/20
前へ
/176ページ
次へ
  「店長、ちょっと道案内をしてくる」 事務所から出て来た鏑矢(かぶらや)にそう告げると、玉虫は不機嫌面のままミチ代さんを手招いた。 玉虫がゆっくりと歩いているのは、両膝の具合が悪いミチ代さんを分かったからであろう。 カウンター越しに手を振る架輪を無視して、玉虫はナイトナイトのドアを開けた。 1月の終りの冷たい風が、店内に吹き込む。 それに乗って来た粉雪の粒が玉虫の広い額に1つ、ソバカスのある小さな鼻にも1つ当たった。 「‥‥‥」 玉虫は店を出て3歩あるくと後ろを振り返った。 ミチ代さんがにこにことして、後ろを付いて来るのを確認して、玉虫はぷいと前を向いた。 「さっきの住所、ここの3階だから」 ナイトナイトを出てすぐの、マンション用のエレベーターのボタンを玉虫は押した。 ウィーンと音がして止まって、エレベーターは扉を開いた。  
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!

134人が本棚に入れています
本棚に追加