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「店長、ちょっと道案内をしてくる」
事務所から出て来た鏑矢(かぶらや)にそう告げると、玉虫は不機嫌面のままミチ代さんを手招いた。
玉虫がゆっくりと歩いているのは、両膝の具合が悪いミチ代さんを分かったからであろう。
カウンター越しに手を振る架輪を無視して、玉虫はナイトナイトのドアを開けた。
1月の終りの冷たい風が、店内に吹き込む。
それに乗って来た粉雪の粒が玉虫の広い額に1つ、ソバカスのある小さな鼻にも1つ当たった。
「‥‥‥」
玉虫は店を出て3歩あるくと後ろを振り返った。
ミチ代さんがにこにことして、後ろを付いて来るのを確認して、玉虫はぷいと前を向いた。
「さっきの住所、ここの3階だから」
ナイトナイトを出てすぐの、マンション用のエレベーターのボタンを玉虫は押した。
ウィーンと音がして止まって、エレベーターは扉を開いた。
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