七尾玉虫

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  玉虫は口を曲げたままスタッフルームに入った。 雑然としたどう仕様も無い部屋である。 パソコンと防犯カメラのモニターが置かれた鏑矢のデスクだけは気持ちの悪いくらい片付いているのだが、それ以外は無法地帯である。 架輪の革靴など、入り口のドアの前に1つ、もう片方は入り口とは反対側の窓の下にころがっている。 スタッフの制服はあちらこちらに散らばり、飲みかけのペットボトルは店のそれより品揃えが多そうだ。 そこまでは100歩譲って許すにしても、コンビニエンスストアの業務には明らかに関係の無い物が沢山ある。 ペルシャ絨毯が壁に掛けられていて、その横には魔法を使えそうなランプ。 アマゾン川の上流で見られそうなカヌーに西洋中世の甲冑と、グライダーの模型にスペースシャトルのプラモデル。 玉虫はその珍奇の幾つかをひっくり返して、桜の花びらの模様の入った手鏡を手にした。 ズボンの後ろのポケットにそれを入れた玉虫は、水色のダウンジャケットを羽織ってその部屋を出た。 「休憩っていう言い方嫌だな」 小柄な玉虫である。 前髪が鼻に掛かっている。 いつも猫背で、大股で歩く。  
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