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玉虫が売り場へ戻ると、会計を済ませたよれよれのスーツが、店を出ようとしている。
玉虫はレジ中にいる鏑矢にも2レジで手を振る架輪にも目をやらない。
ジーンズに両手を突っ込んで、レジの前を素通り。店の自動ドアが開くと、ミチ代さんの前に立って歩いた時と同じく、冷たい真冬の風が吹き込んで来た。
大通りの歩行者用の信号は青。
蒲の穂(がまのほ)公園へ渡るその横断歩道の途中、玉虫は後ろを振り返った。
ナイトナイト看板の上、ミチ代さんが訪れたであろう302号室の窓からオレンジ色の温かそうな光がもれている。
「ヒエッ、ヒエェ──」
よれよれスーツの奇声が聞こえ、玉虫は苦虫を噛んだような顔をして前を向いた。
粉雪はもう止んでいる。
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