七尾玉虫

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  蒲の穂公園とは妙な場所である。 四方を超高層ビルに囲まれているのだが、それらのエントランスはことごとく公園の逆を向いている。 全てに背中を向けられた寂しい所。 ブランコや滑り台、手入れの行き届いた花壇も有るのだが、日中にこの場所で遊ぶ子供の姿は稀で、せいぜい仕事に疲れたサラリーマンが、温かい季節に昼寝をするだけの公園である。 100年前までは底無し沼であったという。 その場所を囲むビル群は、残業の灯りに彩られて、巨大なタケノコの様に冬空に伸びている。 パシッ パシッ 公園の中央で何かが光っている。 しわくちゃのスーツは其れに導かれてフラフラと歩き、玉虫はそれに気づかれないようについて行く。 「はい、カット」 こんな場所でなにかの撮影をしているようだ。 「ヒャッ、ヒャッ、ヒャッ」 しわくちゃスーツの頭から煙のようなものが伸びて、気持ちが悪い。  
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