断罪の牙

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  「我が背にありし姿を見よ。彼は我らに教育を与えて下さった。彼は我らに地位を与えて下さった。彼は憎き貴族に裁きを与えて下さった。彼は、我等を創造したも同じ! 彼は、我等の神である!」 一人の声しか響いていなかった講堂内を、無数の歓声が埋め尽くす。 ザルファーの起こした革命は、彼らの中では聖戦だった。 「しかし、彼は憎き貴族によって、その命を奪われてしまった。同胞よ、それを許すことができるか!?」 続いて放たれた言葉によって、今度は怒号が飛び交い始める。 殺せ! 殺せ! と、呪詛にも似た響きが空間を埋め尽くした。 「ザルファー様は、魔王と呼ばれしイールブラッド・ガラードによって監禁され、命を奪われた! そのイールブラッドは既に滅びたが、それを成したのは誰か。実兄のアルフレッド・ガラードである! その意味を理解できぬものはおるまいな!?」 彼が大仰に腕を振り上げて叫ぶ。 その言葉には大きな意思と覚悟、そして並々ならぬ怒りと憎悪が込められていた。 「そう、全ては茶番だったのだ! 実弟をそそのかして魔王とし、それを打ち倒すことで自らの名声を稼ぐ。学生である今は庶民と分け隔てなく接しているように見えるが、それは世を欺くための策謀! 卒業と同時に、奴は手に入れた名声を利用して支配者の座に君臨する。そして、真の意味で世界を手中に収める。そういう魂胆なのだ!」 空気を震わせるほどの声が、講堂内を満たす。 同胞たちの怒りを一身に受けながら、彼ははっきりと最後の言葉を張り上げた。 「我々は〝断罪の牙〟! 邪悪な貴族をかみ砕く正義の牙である! 我らが継ぐはザルファー様の意思! 我らが造るは庶民の世界! 我らが望むは貴族の滅亡! さあ、今こそ新たなる聖戦を!」 檀上の男が、高らかと叫びを放つ。 それを、講堂の最前列で、青い髪の少年が眺めていた。
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