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イズミがヒロを待って一人でいると、夕実が来た。
「貴方とお見合いさせてくれたおじい様にはとても感謝しているわ。向こうに戻っても、また会えるかしら」
「ごめん。実は付き合っている人がいて、二人では会えない」
「分かったわ。でももしその人と別れて、私の事を思い出したら連絡頂戴」
夕実はメモをイズミのポケットに押し込むと、すぐに行ってしまった。
夕実って可愛らしくて、いい人だとイズミは思った。
ヒロはいつものように物陰からそれを見ていた。
『夕実はお見合い相手』
イズミがお見合いをしていた事も、それを隠されていた事もショックだった。
『私はイズミにとってどういう相手なのだろう』
ヒロは分からなくなった。
イズミにとって自分との交際は、人生の中でほんの僅かな瞬間。
交わした言葉は一瞬の重なり。
終わってしまえば微かな記憶にしかならないような存在。
否、記憶にも残らないかもしれない。
イズミは自分と別れてもすぐに次へいく。
それが嫌と言うほど分かるから辛い。
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