第1章:上 二周目

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 その後俺と日比谷は一周目の世界のことや、二周目の現状について情報を交換し、続いて具体的な話に入った。 「黒沢クンは当然一周目の世界では《アスガルド》のメンバーだったんだろ? どんな異能を持っているんだい?」  異能力者対策組織(アスガルド)。それは九十年代半ばから頻発するようになった異能力者による犯罪を防ぐために設立された国家組織の名称である。  パニックが起こる可能性を危惧して、一般の人間には秘匿されているが、いわゆる“超能力”に値するものを宿した人間は相当数存在している。それらが起こす犯罪は一般の警察組織では手に負えず、異能力者が多数存在を確認され始めた九十年代はかなりの混乱があったという。  そこで国家の採った対策は単純明快、『毒を以って毒を制す』ことであった。  異能力を持つ人間を管理すると同時に、在野の能力者を確保する手段として利用する。シンプルだがよく出来たシステムだった。  日本で《アスガルド》という組織が誕生してまだ二十年にも満たないが、その影響力は無視できないものとなりつつあり、現在では波奈市程度の規模のある街には必ず《アスガルド》の支部が一つは置かれていた。  俺は当然(アスガルド)で在野の能力者と戦っていた人間なので、異能も持っていた。そもそもある日突然異能に覚醒したのが俺の非日常の始まりだったのだ。 「俺の能力なー。見せてやってもいいんだが」 「なんだよ、もったいぶらなくてもいいじゃないか」 「そういうことじゃねーんだよ。俺の能力は……」  俺の能力にはちょっとした制約があった。どんな異能も発動にはそれなりのルールがあり、ルールから逸脱した使用方法はできないものなのだが、俺の能力も例にたがわず使用するにあたっての条件が存在する。 「……まあいいか、見せてやるよ。訓練所に行こうぜ」
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