第1章:上 二周目

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 能力の披露後、俺と日比谷は施設地下一階の休憩所にやってきていた。  自販機で俺は缶コーヒー、日比谷はコーラを購入すると、手近なところにあったベンチに腰を下ろす。 「さて、今更訊く必要もないと思うけど。黒沢クン、キミはアスガルドに参加してくれると考えていいんだよね?」 「当然だ。何の為に三年前に戻ってきたと思ってるんだ」  俺が答えると、日比谷は満足そうに頷く。 「優秀な部下が増えるというのは良いことだね。明日からは楽になりそうだ」 「は? 明日?」 「ああ、明日からキミはアスガルドの局員だ。特別に部隊長格の待遇をプレゼントしよう、いいだろ?」  さらりと言ってのける日比谷であったが、大丈夫なのだろうか。自分で言うのもなんだが、三年後からやってきたという怪しさ満点の男を無条件で信用した上に、翌日から組織の部隊長クラスでの迎え入れとは……。器が大きいのか、何も考えていないだけなのか。  仮にも自分の上司だ。前者だと信じたいが、無意識のうちに炭酸飲料を振ってから開けようとしているこの姿を見ていると、どっちとも言いがたい。俺は日比谷から少し距離を取る。案の定、空けた瞬間噴出してきたコーラを顔面に浴びて悶絶する日比谷。 「キミの事は全面的に信用していくつもりだ。こう見えても人を見る目は確かでね」  コーラ塗れの顔で無駄に爽やかに言ってのける日比谷。説得力ねーよ。  しかし日比谷の人を見る目については誰よりも俺が一番良く知っていることだった。そして、その信頼に答えるだけのものを俺は持っている、つもりだ。 「ありがとう。じゃあ最後にもうひとついいか?」 「うん? いいよ、何でも言ってみるといい」 「この木刀はもう少し借りておく。そして、これから起こることの責任を取ってくれ」 「?」  日比谷は怪訝な顔で俺が訓練所からずっと持ったままの木刀を眺めている。いくら日比谷の察しがよくとも、これだけでは流石に分からないだろう。問題ない。これは二周目の世界を生きる俺にしか分からないことだから。  答えを見てから問題を解き始めるような、反則行為。  だが、戦争に反則なんてものは存在しない。存分に不意を打たせて貰う。  俺は木刀を握りなおすと、予備動作なしでそいつの頭に殴りかかった。
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