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まさか避けられるとは思っていなかった。勘付かれていたのか。だとすれば奇襲は逆効果だったかもしれない。俺達が今いる休憩所はアスガルド波奈市支部地下一階エレベーターホールから真っ直ぐ進んだ先にある広いラウンジのようなスペースで、支部内でも人通りがもっとも多いところの一つだ。周囲にはアスガルドの非戦闘局員たちで溢れている。こんな場所で戦いを始めるべきではなかった。
「ちぃっ……!!」
「え、ちょ……黒沢クンこれは一体!?」
俺の行動に理解がついてきていないらしい日比谷が叫ぶ。詳しい説明は後回しだ、今はこれだけでもと俺は大声で叫ぶ。
「気をつけろ、そいつは裏切り者だっ!!」
そう言って俺が指差した先には。
「な、なんだよいきなり。ぼくが何をしたっていうんだよぉ!?」
小柄な少年が酷く怯えた様子で立ち竦んでいた。
雪城レン。
アスガルド情報探索班所属局員にして、一周目の世界では俺の友人であった男。
コイツに裏切られた日のことは今でも鮮明に覚えている。
もとから敵対組織の幹部であったコイツはアスガルドでスパイ活動を行うと同時に、自分にとって危険な能力者を任務の中で謀殺し続けていた。間抜けにも俺達がその事実に気付いたのは俺が能力に覚醒してからおよそ半年も経ってからのことだった。簡単なハズだった任務を利用して俺を敵が待ち受ける廃ビルに誘いこんだ、コイツはそこで言ったのだ。
……『騙される方が悪い』と。
「悪いけど、今度は騙されてやらないぜ」
二周目の世界を生きる俺に、裏切りや騙まし討ちは通用しない。
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