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日比谷の頭の中には消しきれなかった俺との戦いの記憶が残っているのかもしれない。直接的には思い出せずとも、俺のことを信頼する気持ちがどこかに残っていて、だからこそ日比谷は俺を疑わないのだと。
あー、まあこれは俺の都合のいい解釈で、実際は単に日比谷が底抜けのお人よしなだけかもしれないが。
信頼されるのは悪くない気分だ。
「お前はどうなんだ? ベストラ、人の信頼を裏切るってのはそんなに楽しいことなのか?」
雪城レン――ベストラは何も答えない。ただじっと俺の方を見ている。
重々しい沈黙が続く。
俺は右手に木刀を握り、身体に負担のかかり過ぎない体勢で攻め込む機会を待つ。
ベストラの方は手ぶらだ。アスガルド局員に支給される浅葱色のジャケット以外には戦闘に役立ちそうな装備は何一つ身につけていないように見える。とはいえ、見えるだけで実際はナイフの一本や二本、下手すれば拳銃くらい隠し持っていても不思議ではないが。
やがて、ぽつりとベストラが呟く。
「………………いよ」
「?」
「楽しいに決まってんだろぉ!! バアァーーーカ!!」
発砲音。
咄嗟にサイドステップで右に逃げる。つい先ほどまで俺がいた場所に弾痕が二つ穿たれるのを視界の端で捉えた。
(やっぱり拳銃か……)
小柄でひ弱。身体能力の低いベストラが暗殺以外でナイフのような近接武器を使うとは考えにくかったので、これは読めていた。日比谷やそのほかの局員に逃げるよう合図を送り、俺はベストラとの距離を測る。
「よく避けれたねぇ。銃弾は見てからどうこうできるモノでもないし、やっぱり最初から気付かれてたのかなぁ?」
「まあな。お前のやることなんか、初めっから分かってんだよ」
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