第0章 絶望の果て

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 世界滅亡がもう目前にまで迫ってきていることは流石の俺にもよく分かった。  血でも流したように真っ赤な空にはどす黒い雲が幾重にも重なり、真昼だというのに一条の光も差し込んでこない。地獄のような光景を彩るのは廃墟と化した波奈市の中心街と、道のあちこちに倒れ付すかつての仲間達の亡骸だった。  どこからともなく呻き声が聞こえる。まだ息のある隊員もいくらか存在するのだろう。けれど、今の俺には彼らに手を差し伸べてやれるだけの余裕がない。引き裂かれそうになる心の痛みに耐えながら、俺は先を急ぐ。  左手を半ばから失い、片目も潰された。放っておけば後数分の命。  全てが終わってしまう前に、俺にはしなければならないことが残っていた。  波奈市の中心にはオフィス街が広がっている。ほとんど倒壊しているビルの間を駆け、俺が向かうのは小さな雑居ビル。薄汚れたドアを蹴破るようにして開くと、一心不乱にエレベーターへと縋り付く。  構造上、本来なら存在しえないはずの地階へ向かうボタンを押すと、静かにエレベーターは下降を始める。  エレベーターはそのスピードを緩めることなく最下層に到着すると、扉を開いて停止した。施設の非常電源に限界でも訪れたのか、エレベーターが再び動き出す気配はなかった。  白く、無機質な印象のする廊下を一番奥まで進む。そこには一際頑丈そうな扉と、扉を開閉するコンソールが設置してあったが、先ほど非常電源も落ちたところだ。完全にシステムもダウンしているだろう。  扉を開けるには、力尽くしか方法はなかった。  左手はもうないので、右手だけで腰から長剣を引き抜き、正眼に構える。俺が目を閉じ、剣先に意識を集中すると、刃に青白い光が灯る。  そこで剣を振り上げ、袈裟懸けに切り下ろすと分厚い扉はまるでバターのようにたやすく真っ二つとなった。崩れた扉を乗り越えて、俺は先に進む。
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