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軽口でベストラを挑発しながら、俺は冷静に状況を分析する。
ベストラが右手に持つ拳銃はチェコスロバキア製CZ110。銃は専門外なので、詳しいことは分からないが特に目立ったところのない普通の拳銃のように見える。改造の後もない。とりあえずあの銃からレーザーだの火炎放射だのが飛び出してくる心配はなさそうだ。
右手の拳銃で俺を威嚇しつつ、左手はふらふらと中空をさまよっている。あっちへこっちへと空気を掴むような奇妙な動作で左手は動く。どうにも意図の読みにくい行動で、一周目の世界で直接対決したときにはかなり考えたものだった。
だが、今の俺は既に答えを知っている。これは単なるブラフだ。
俺は休憩所のベンチのところまで戻ると、そこに置きっ放しにしていたコーヒーの空き缶を拾う。
「ッ……ラァッ!!」
それを目一杯の力でベストラに向けて放り投げる俺。当然、そんなものでは何のダメージも与えることは出来ない。しかし、咄嗟のことにベストラは反射的に顔をかばうような動作を見せる。これが俺の攻め込む隙になる。
踏み込む足に力を込めて、けして広くはない休憩所のスペースを真っ直ぐに突っ切って走る。彼我の距離は多めに見積もっても十メートル程度のもの。この距離を詰めさえすれば拳銃よりも木刀の方が圧倒的有利に立てる。そう考えての行動だった。
「貰った!」
木刀を振り下ろす。同時に能力を解放。薄く光をまとった木刀がベストラの頭に直撃――
「甘いよぉ」
俺の一撃を、ベストラは首を僅かに反らすだけで見事に回避してみせた。目標を見失った木刀はそのまま休憩室の床に突き刺さり、大きな亀裂を生む。
「く……」
危ない。そう思ったときには既にベストラは拳銃の照準を俺に合わせていた。躊躇うことなく引き金が引かれる。
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