2人が本棚に入れています
本棚に追加
連続する発砲音。
ベストラはまるでここで全てを終わらせるとでも言わんばかりに銃を連射する。眼前に迫り来る弾丸。全身の肉を引き裂かれ、血が飛び散るイメージ。俺は、ここで死ぬのか?
……そんなわけはない。
ベストラの超人レベルの反応速度と回避。そこからのカウンター的連射。
ここまで全て俺の予想通りだ。
俺は振り下ろした木刀の威力を殺さず、そのまま地面に突き立てると棒高跳びの要領で一気に身体を跳ね上げる。銃弾は跳び上がった俺の身体の遥か下方を通過していく。信じられないものを見たような顔をするベストラを跳び越え、背後に降り立つ。ジャンプの際に木刀は手放してしまったが、近接戦闘で俺がベストラに負ける道理はない。
一周目の世界では三年間、みっちり戦闘の訓練を積んできた俺だ。本来単なる非戦闘員であるベストラとは身体捌きがまるで違う。
着地の衝撃を殺さず、そのままベストラの右手に蹴りを放つ。蹴りは見事直撃し、拳銃がヤツの手から離れる。
その好機を逃がさず畳み掛ける。左手でベストラの着ているジャケットの襟を掴むと、右手で鋭い拳を突き出す。ギッ、と肉と肉が擦れ合う感触。
かすっただけ。
やはり、ベストラの真の能力はこの世界でも健在というわけか。
ヤツの能力は広域情報探索。それを応用することで戦闘中の先読みを常人離れした精度で展開する。それがベストラの本当の力だった。一周目の世界では、ベストラの異能を戦闘ではまったく役に立たないものとして油断していたが故に俺は大怪我を負うこととなってしまった。
同じ過ちは繰り返さない。
すんでのところでパンチを回避したベストラは俺に掴まれたまま器用にジャケットを脱ぎ捨てると、一気に俺から距離をとった。ちょうど俺が突撃する前と立ち位置が反転した形になる。
「くふっ、くふふっ。やるねぇ、流石のぼくも少し驚いたよ」
ベストラは笑いながら背中に手を回す。カチャリ、という金属音と共に抜き出される大振りのナイフ。
まずいな、と思う。
最初のコメントを投稿しよう!